逝去

一緒に暮らしていた犬が死んだ。

 

父の時も姉の時も、とても悲しかったけれど納得できた。

人の死については小さな頃から納得していた。

 

犬の死は違っていた。もちろんとても悲しかったけれど、さらに喪失感があった。

何をなくしたのだろう、考えてみた。

人は隣人であったけれど、犬は景色だったんだ。

人が亡くなっても景色は変わらないけど、犬が亡くなると景色が変わってしまう。

いつもいい顔をしていた。いつも話の相手をしてくれた、いつも疲れた心を癒してくれた。

人の行動範囲はとても広いのに、どうして心の行動範囲が狭いのだろう。

犬の行動簡易は半径1.5mの円の内側しかなかったのに、どうして心があんなに広かったのだろう。

いつもいい顔をしていた。それが無くなっただけで悲しみよりも寂しさで涙も出ない。

こんな時こそお酒でも飲んで、思い切り泣いてみたいと思う。

 

今日、火葬場に連れていって最後のお別れをしてきた。

やがて新しい犬がやってきて、全てが思い出になってゆくのだろう。

そしてまた、新しい景色が出来上がってゆく。

 

忘れないことは人に進歩をもたらした。

忘れることは人に幸福をもたらすのだろうか。